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 7月7日の七夕。
 健太が産まれた。

 予定日の6日には出産とならず、7日も朝から陣痛室にいたヒカルをずっとマッサージ。

 子宮口が10センチまで開かないと分娩台に乗せてくれない(子宮口が10センチまで開いてからをお産という)のですが、20時くらいの段階で子宮口の開きが9.5センチ。
 母子共にクタクタなので、主治医と相談の上で吸引(トイレが詰まったときみたいな吸盤で健太を引っ張り出す)出産となったのですが7回やっても産まれない…。

 

 いきなり分娩室の雰囲気がエマージェンシーモードに切り替わり、5〜6人いた産科のスタッフが関係各所に内線電話。
 小児科と外科と麻酔科のスタッフが呼び集められて、総勢20名くらいが、ムダな動きゼロの機敏さで一気に段取りに入る。

 危ない状態になったのかと慌てていると、主治医の説明の後に
「7回吸引しても出てこないのですが、これ以上やると赤ちゃんと奥さんがしんどいと思うので帝王切開に方針変更します。奥さんは意識が朦朧としているので、方針変更に異論なければ承諾書にサインをお願いします」
 と告げられ「分娩停止」と書かれた書類を渡された。

 

「えっ? なに? 分娩停止って…」
 いきなりの展開に焦る。 

 

 この先生は常にヒカルと赤ちゃんのことを考えてくれていて
「赤ちゃんとお母さんがしんどいとかわいそうだから」
 と言ってくれるので全幅の信頼を置いてるのですが、2日連続で朝から晩まで陣痛妻と過ごしているのでぼくの判断力も曖昧。

 分娩台の上でぐったりしているヒカルに
「帝王切開に切り替えるそうだから、それでOKだね?」
 と確認すると
「うーーーーーーん…」
 と、曖昧な返事。

 ヒカルの判断力が曖昧だからぼくに判断が委ねられているのですが、ヒカルと相談もせずに重大な決定をすることになるとは想定外だった。

 帝王切開に切り替える理由とリスクを再確認した上で承諾書にサイン。

 

 すると分娩台の上のヒカルが10人くらいでストレッチャーに乗り換えさせられて手術室に移動となった。

「帝王切開になるけれど、ヒカルも健太も大丈夫だから心配するな」
 と、ヒカルの手を握りながら励ましていると、手術室に通じるエレベーターホールに着いたところで
「ご主人はこちらでお待ちください」
 といわれて、ひとりぼっちで廊下に取り残される。

 

 ほとんど人が通らない夜の病院の緊急エリアのエレベーターホールに一人きりというシチュエーション。
 どうしても悪いことを考えてしまうが、悪いことをイメージするとダークフォースを呼び寄せてしまう気がするので、ポジティブなことばかりを考えてみる。

 しかし具体的にポジティブなイメージが描けない…。

 ヒカルが亡くなって健太だけ生き残るケース。
 健太が生き残ってヒカルが亡くなるケース。
 2人とも亡くなるケース…。

 

 お産は命がけだといいますが、命がけのケースに向き合う心の準備もできていないわけです。

 帝王切開で出産している友人に電話をしてみようと思うが、そんな気休めのために電話するとバッドラックを引き寄せるかもという気がしてやめた。(いま考えると、そういう思考になるくらい疲れてたんだな)

 

 1時間後くらいに扉が開いて、保育器に入った健太が運ばれて来た。

 生きてるだけで十分なのでよく確認もせず
「ヒカルは大丈夫ですか?」
 と訊くと
「大丈夫ですよ。麻酔から完全に覚めるまで手術室を出られないので、もう少しここでお待ちください」
 と告げられて健太はどこかへ運ばれて行った。

 健太との初対面は廊下ですれ違っただけで終わった。

 

 そのまま廊下で1時間くらい待ち続けると主治医がやってきて
「奥さんも赤ちゃんもしんどくなる前にどうにかなったので、よかったですね」
 と言ってくれた。

 先生のいう「しんどい」という状況がどんな状況なのか分からないし十分に「しんどい」状況だと思うのだけど、先生の人柄もあって安心できた。
「奥さんはしっかりしていて、横切りにしてくれというリクエストだったので横切りにしました」
 とのこと。

 

 やっと対面できたがヒカルは疲労困ぱいなので
「明日また来るね。健太も元気だから大丈夫だよ」
 とだけ声をかけて病院を出る。

 

 予定では祝杯でもあげようと思っていたのですが、そんな気分にもなれずラーメン屋さんで焼酎濃い目のウーロン杯を飲んで帰宅。

 かなり長い時間、留守番させてしまったモグに状況の説明。
 室内でボール遊びするが、ぼくのテンションが低いのを察してかモグのテンションも低い。
 少しだけ遊んでベッドに入る。

 嫁を揉んでいたら七夕が終わった…。

 

「退院したらバタバタになるから、飲み歩くなら私の入院中にしてね」
 といわれていたんですが、なんの因果か、飲み歩く気分になれないもんだ。

 

 

 7月8日。
 2時間寝たら目が覚めた(前日も2時間しから寝てないのでまだ気が立ってる証拠)ので早朝からモグの散歩。
 元気ではあるけれど、ヒカルもいないのでご機嫌斜め。

 散歩終わりで池袋に移動して朝からミーティング。

 ミーティング終わりで一時帰宅。
 入院想定しての荷物を持参していますが、術後で歩けない状態になっているヒカルのリクエストを受けて荷物を持ち込みつつの面会。

 病室に入ると、ヒカルが横たわるベッドの横に健太。
 はじめて抱いてみるがウーパールーパーみたい。(もうちょっと男前だといいのに)

 

 陣痛や麻酔で意識が飛び飛びになっているヒカルに昨日の報告。
 だいたいのことは認識できているがディテールはさっぱり分かってない様子。

 

 昨晩の帝王切開手術の後に、主治医が言っていた
「横切り」
 という意味が分からなかったので確認すると
「ビキニを着るときに縦切りだと傷跡が見えるから、横切りにしてもらったの」
 と言っていた。
 ぼくが廊下で最悪のケースも考えて途方に暮れているとき、ヒカルはビキニを着て遊びに行くことを考えていたそうだから深い…。 

 

 七夕は過ぎてしまったけれど、星に願いをするなら
「健太が環境(動物や自然や他人などの自分以外の全て)を愛して、環境から愛される人に育ちますように」
 ということかな。 

 

 面会からの帰り際に
「昨日は大変だったけど元気でよかった。退院したら兄ちゃん(モグ)が待ってるぞ」
 と健太に声をかけたら急に目を開いてカメラ目線になった。
 生後1日で目が見えてるのかな?
 ヒカルやぼくをまじまじと見つめてたけど…。

 

 狼に育てられた少年「ケン」の物語が好きだった。
 犬に育てられるベイベー「健太」の物語はどうなろうのだろう?

 

 お花を贈ってくれたり、連絡をくれたりと、みなさま色々とお気遣いありがとうございます。
 今後ともよろしくお願い致します。 

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