タオはあまり棒状のガムが好きではありませんでした。本当は噛んで食べるものなのに噛んで変形させて終わり。
なので変形したガムがいつも家の中に数本落ちていて、遊んで欲しいときはそれをどこからか持ってきました。それを受け取って投げてやると、嬉しそうに取ってきてまた渡してくれる。ぼくにとっては特に面白くもない遊びなんですが、タオは変形棒ガム投げ遊びが大好きでした。タオがほんとうに嬉しそうで楽しそうなので、面白くもないんですが、そんなことを面白がるタオが可愛くてよく一緒に遊んだ。
家の中に変形したガムが見つからないときはベッドど床の隙間を前足で掘る仕草をして
「おとん! この中にガムが入ったから取ってくれー」
と、せがみます。
本来の躾としては、犬が催促してきてこちらが動くと、催促すればなんでもやってもらえると勘違いしてしまうのでダメなんです。
ボール投げしたいとき、遊びたいとき、散歩に行きたいときは、犬からの催促ではなくて、飼い主側から「おいタオ! ボール投げしようぜ!」という感じでこちらがリードする。それが躾の定石なんです。でもうちはそんなのお構いなし。
なにせ生後2週間(これはまた別に書きます)でもらってきたタオは、自分のことを犬だと思ってないし、ヒカルもぼくもペットという認識でタオを暮らしていませんでした。
タオが催促してもしばらくは、一応は主人の威厳を見せるために
「タオさ、お前そんなにボケちゃったのか? 犬なんだから鼻が利かなくなったら終わりだよ。ベッドの隙間になんか何もないよ」
と言って聞かせます。
するとたまに理解したみたいで諦めることもあります。いま思えば、そんなことで威厳など見せずに、幾らでも、タオが望むだけ遊んでやればよかったですが…。
意味なくぼくが威厳を見せても、それでもしつこくベッドの隙間を掘って催促するときもありました。その時は仕方ないのでベッドの隙間に定規などの細い棒を入れて何か入り込んでないか探ってやります。
すると大抵の場合、ぼくの知らないうちに、タオが1人で遊んでいるうちにベッドの隙間に入り込んでしまった変形した棒ガムがでてきました。
それを取ってやると大喜びでうるさいくらいに吠えするのですが、それはまるで
「すげーなおとん、かっけー! ありがと!!」
と言ってくれている様でした。
そして、特に面白くもない変形棒ガム投げ遊びがスタートするのです。
しかし。
ベッドの隙間から変形棒ガムを取ってやっても
「おとん、それちゃうでー。まだはいってるでー。もっとほりだしてー」
という感じで、取り出した変形棒ガムに興味を示さずに、ベッドの隙間を前足で掘るみたいな仕草を続けることがありました。
でも取り出した変形棒ガムでタオをあやしていると、そっちに興味が出てきて、いつもの変形棒ガム投げ遊びがスタートします。
いつだったか、変形棒ガムを取り出しても
「それちゃうやん。おとん、ちがうの、とってくれー」
とあまりにしつこいので、懐中電灯でベッドの隙間を照らしてもうなにも入ってないことを確認したことがあります。
真剣に探しても本当になにもなかったので
「タオさ、もう、ほんとになにも落ちてないから、諦めろって。お前の勘違いだよ。ちゃんと懐中電灯で確認したの見てたろ? 分かったか?」
ということを説明して、時間をかけて納得させたことがありました。
そしたら。
タオが亡くなった後にぼくのベッドと床の隙間に何かが見えて、取り出してみるとねずみおもちゃでした。
懐中電灯で探しても、ベッドの下には何もなかったのに。
タオは安っぽい作りのぬいぐるみが大好きでした。ぬいぐるみを噛み千切って中の綿を全て出してしまうことが大好きでした。高級なぬいぐるみだと、縫製がしっかりし過ぎていて中の綿を出すことができないんです。なのでUFOキャッチャーの景品が大好き。
たまにタオのおもちゃを手に入れるためにUFOキャッチャーをやったんですが、このねずみおもちゃもUFOキャッチャーの景品。確か中目黒か、渋谷のゲーセンで獲ったモノ。
タオはこのねずみおもちゃも大好きだったんです。でもあまりに小さくて噛みちぎることができないので、全てを口にふくんで、おしゃぶりみたいにして遊んでいた。
ずっと舐めてるので、唾液でべちょべちょで、あまりに汚いので、ぼくはこのおもちゃが嫌いでした。
きっとタオが
「それちゃうやん。おとん、ちがうの、とってくれー」
と言ってたのはこれだったんです。
しかしねずみおもちゃの存在も忘れていたし、懐中電灯で見たのに見つからなかった。
すぐに他のおもちゃに興味を示していたから、タオもこのおもちゃのことなんかそんなに大事ではなかったのかも知れませんが、亡くなったいまとなっては、どうしてあのときに見つけてやることができなかったのかと悔やまれます。
こんな些細なことはどうでもいいというのも分かってるんですが、あのときベッドを移動させてもっと徹底的に探してやってれば、タオがねずみおもちゃを欲しがったときに見つけてやることができたのに。
タオのいってることを理解して上げられなかったから残念がっていないだろうか?
悲しがっていないだろうか?
そんな小さな後悔が次から次へと出てきます。
完璧なんてありえないので、どんだけ全身全霊で愛して、そして全身全霊で愛してくれても、些細なすれ違いってありますもんね。
それは分かっているんだけれども、でもそれが寂しい。
話しは変わりますが鳩山首相の所信表明を見ました。
国民のことも、日本のことも、世界のことも大事だけど、それだとあまりに人間本意。
老人や、子供や、女性や、低所得者や、失業者のことを優先させるのも当然大事だけれど、もっと、犬やカメや猫のことも大事にする世界になって欲しい。
犬やカメや猫という限定じゃなくて、やっぱりちゃんと生きとし生けるもの全てを慈しむ世界じゃないとダメですよ。
それと未来のことを見据えて、未来のためにいま我慢するとか。
でも犬や猫には選挙権がないから、犬猫のことを考えても票に結びつかないんですよね…。
そうなると後回しにされちゃうけど、毎年100万匹近い犬猫が殺処分されている社会なんて、絶対になにか間違ってますもん。
ペット可の物件が少なくて引っ越しに苦労するとか、犬種を聞かれて「雑種です」というと断られるとか、そういう悲しい思いもタオにさせてしまったし。そのためには飼い主側のマナーの徹底も必要だから教育も大事。
飼い主が行政の方針で強制転居させられて、転居先で犬が飼えないために、飼い主が見つからなければ50数匹の犬が殺処分されてしまうというポスターが病院に張ってあったんです。
タオが生きてるときはタオのことしか考えられなかったけれど、でも、そんな現実があるということはもの凄く気が病む。
どういうアプローチをするかまだ決めかねていますが、タオの生と死が教えてくれたことを活かすために、ちゃんと行動しようかと思っています。
ヒカルもそういう気持ちになってるみたいなので、2人でやれば些細なことでもなにかできるかも。
人間と人間が寄り添う社会、人間と人間が支え合う社会は政治家が目指してくれてるので、ぼくらは政治家が目指さないことをやろうかと…。
それは人間と人間でも、人間と動物でもなくて、生きとし生けるものがお互いを慈しみ合って支え合う社会。
政治というスケールより大きな大志。「少年よ大志を抱け」じゃなくて「おっさんが大志を抱いた」わけです。
するとタオが
「おとん、かっけー。ねずみおもちゃは、みつけられんかったけど、おりのおとんは、ほんま、すごいんやでー」
と、タオも応援してくれる気がしなくもない。
悲しみが癒えるとそんな大志も消えちゃいそうなので、これがぼくの所信表明。
タオの散歩や、タオと遊んだりしていた時間がそっくり空くので、その時間をNPOなどに参加して埋めてみる。
タオが背中を押してくれたので、きっとタオも力を貸してくれるはず。
だよね、タオ?


