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 手術後に、まだ麻酔が効いているタオと面会し、帰宅したのが20時半。

 溜まったメールの処理と急ぎの仕事に取り掛かるとすぐに携帯電話が鳴った。知らぬ番号だが市外局番に見覚えがあった。それは神奈川のもの。タオが入院している麻布大学附属動物病院からに違いない。

「タオに何かあったのか!?」

 と瞬間に思う。容体が急変したのか、逃げ出したのか…。

「西さんでしょうか? 麻布大学病院の○○です」

「はい、西です」

「申し訳ありません。実はタオちゃんが…」

 ここで何かよかならぬ事態に陥ったことを確信する。しかし何があったのかは怖くて聞けずに黙っていると

「点滴が終わるまでは大人しくしていたんですが、点滴が終わった後にケージに入れておいたら…」

 核心と結論を早く教えて欲しいが、悲しい事が起きたのなら教えて欲しくない。

 そんなことを考えながら何も言うことができずに黙っていると、さらに担当で当直の女の先生が続ける。

「太い金属でできたケージに入れておいたんですが、どうしてもそこが嫌みたいで。ちょっと目を離している隙に…」

 さすがに待ち切れずに

「どうしたんですか!?」

 とやや焦り気味に尋ねると

「金属を噛み切ってケージから出ようとしたみたいで、歯が欠けてしまって、かなり出血してしまったんです」

 と、その先生が申し訳なさそうに言う。

 正直「なんだそれくらいのことか」と安堵したんだが、わざわざ夜に電話してくるんだから話しにはまだ先があるのかも知れない。そのまま出血死ということもあり得る。そんなことを考えてしまうくらい気持ちがナーバスになっているだ。

「それでどうしたんですか?」

 と再び尋ねると

「○○先生とも相談したんですが、本来ですと手術後の経過を見るために今日は入院してもらった方がいいんです。でもこんなに嫌がるならタオちゃんにストレスがかかって腎機能がまた低下してしまうので、可能でしたらお迎えに来て頂いた方がいいと思いまして」

 とのことだった。

 何事かと心配していたヒカルも、ボクが安堵した様子を見て落ち着きを取り戻す。

「分かりました。それなら迎えに行きます。遅くにお手数かけてすいません」

「いえ。こちらこそ、歯が欠けて出血までさせてしまって申し訳ありません」

「そんなことは、なんともないですから。タオが勝手にやったことですし…」

「しかしお迎えに来て頂くのも本当に大丈夫ですか? 可能だったらというだけで、今晩は病院でケージに入れずに預かる事もできますから」

「いえ、大丈夫です。1時間で伺いますので、よろしくお願いします」

「ではお待ちしてます」

 40キロの道のりを1時間かけて戻ってきたわけだが、その直後に再び今来た道を戻る。

 完全に誰もいなくなって受け付けのシャッターすら降りている病院は、なんとなく悲しみのベールを纏っている風に見える。

「あのもう1人の飼い主さんと猫は大丈夫だったんだろうか?」

 タオとの再会。

 まだ完全に麻酔が切れてないらしく足がもつれて普通に歩けない。

 手術直後の面会時は懸命に尻尾を振って、麻酔で自由に動けないにも関わらずムリに起き上がろうとしていたのに、家に帰れるということを感じ取って安心したのか、こんな痛い目に合わせた仕返しという感じでボクの事は完全無視。

 しばらくご機嫌ななめなのは仕方ない。

 まだ痛みがあるだろうに、家に戻ると安心し切った様子で寝ているタオ。

 初入院&初外泊は彼の徹底的な抗議行動により白紙撤回。

 小さいときからペットホテルに預けてケージに慣れさせた方がいいと聞いてはいたが、タオは一生入院もホテル泊もできないこと確定。

 傷口を舐めないように見張ってないといけないので、抜糸までの2週間がまた大変。

 可愛いから許せるけど、これで可愛くなければどうなるんだろう?

 可愛いけりゃいいってことなのか?

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