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 朝の10時少し過ぎで店外並び3名。
 ぼくが店内に入るときには11名並んでいた。
 この時間で10名以上の待ちって、さすがに今年度も安定の人気。

 カウンターに座ると、隣に60代くらいのおじさんが座った。
 おじさんのオーダーは、ビールとラーメンとギョウザ。

 店が混んでいてビールの提供に時間がかかり、その間に、おじさんはギョウザのタレの配合を始めた。

 カウンターに置かれたタレ用の小皿に醤油を小匙一杯。
 次にお酢を小匙半杯。
 割り箸で混ぜて、先をちょびっと舐めて味見。
 次に醤油を数滴。
 割り箸で混ぜて、先をちょびっと舐めて味見。
 次に醤油を数滴。
 割り箸で混ぜて 、先をちょびっと舐めて味見。

 醤油が強くなり過ぎたのか、次はお酢を数滴。
 割り箸で混ぜて、先をちょびっと舐めて味見…。

 このおじさんだったら、STAP細胞を作れるんじゃないかっていう精度の高さ。
 ぼくが助手をやっていれば実験ノート10冊は書ける。 

 

 そのうちにラーメンが提供されて食べ始めるおじさん。

 この段階でもおじさんのビールは未だ提供されず。

 次におじさんのギョウザが提供された…。

 

 細胞に酸のストレスかけてリセットする様な慎重さで、ギョウザをタレにつけるおじさん。
 ギョウザを頬張りご満悦。

 よかった。
 実験(?)は巧くいった様だ。

 

 …が。

  

 未だおじさんのビールが提供されない。

「隣のおじさんのビール。早く出してあげて」
 と、お店のスタッフに声を掛けよう思うも、出過ぎた真似という気がしたので躊躇。
 もしかしたらこのおじさんは筋金入りの常連さんで
「2つ目のギョウザを食べ終わった頃合いでビールを提供すべし」
 などの、計り知れないローカル&パーソナルルールがあるのかも知れない。

「早くおじさんのビールが提供されますように」
 と祈りながらメンマネギを食べるおじさん。(ぼくのことです)

 

 …すると。

 

 厨房のお兄さんに
「ビールちょうだい」
 と、ぼそっと告げるおじさん。

 ホールのお兄さんに、それを伝える厨房のお兄さん。

 するとホールのお兄さん
「キリン? サッポロ?」
 と、いつもの確認。

「サッポロ、小瓶で」
 と、おじさん。

 

 音もなく静かにプランBが発動した。
 最初のオーダーは小瓶ではなかったので、ビールの提供が遅れたことで小瓶に計画変更したのだ。

 

 ちょっとしたオーダーミスがあったものの、大瓶から小瓶への計画変更ということで、何事もなかった様に事態が収束する奇跡を目の当たりにした土曜日の朝。

 世界は静かに、そして深く変化する。

 

 ご馳走さまでした。

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